スパイスとハーブの話
スパイスとは、偉大な歴史そのもの

 気分で買ったスパイスが、いつもの料理を別もののプロレベルの風味と味に変身させることがある。このとき、スパイスやハーブの面白さに目覚め虜になる。これを使うと、こうなるのか…と、この繰り返しは料理の一つの奥深さなのだろう。
 昔から香辛料は好きだったが、興味が加速したのは1990年頃のインドブームだった。当時開催された国立民俗学博物館『大インド展』で、偶然、知り合った神戸輸入商のインド人オーナーとの出会いがなかったら、今のような私になっていないのかもしれない。また、そのころ、外務省のODAでインドネシア・バリ島の国立デンパサール博物館のプロジェクトを担当し、各地をフィールドワークしたことで決定的となった。

 ところで、スパイスやハーブの歴史を何千年も辿ると、薬であったのはご存知だろう。

 エジプトではミイラを作るのに利用し、軟膏や油薬としても使ったり、また、香として室内で焚いたりしていた。アジアやアラビア、地中海地方では、食生活に欠かせないものとして人々と深く関わってきた。やがて、西洋では金同様の価値を持つほどに珍重され、スパイスを求め、各国は競って東方へと新航路探索の旅に出て大航海時代を迎える。生産権利権や植民地化を巡って熾烈な争いも繰り広げられた。各国の食文化のベースであったスパイスは、現地の人々の暮らしからかけ離れ、世界史を左右する存在となったのだ。

 昔も今も人々を魅了するスパイス。香りや風味、味の向こう側には壮大な歴史がある。

 料理で一振りするときは、ありがたく、丁寧に、そして大切に使いたい。

 ここ数年、激辛ブームでスパイスというとただ単に辛いとのイメージが強くなり、一方、ハーブのブームが定着している。なかなか寂しい時代になった。

 カリーパウダーやガラムマサラを作るときの様子だ。アトリエの中はスパイスの素晴らしい香りが充満する。
 これはカリーパウダーのレシピの一例。手前から左/カーダモン、中/ターメリック、右/クローブ、中列の左/シナモン、中/コリアンダー、右/クミン、後列の左/ブラックペッパー、中/マスタード、右/ベイリーフと並ぶ。後には、スパイスを挽くための愛用の道具「薬研」(右)、「小型すり鉢」(中)、「乳鉢」(右)である。時間がないときは、ミキサーで挽いてしまう。