写真ギャラリー2 「額縁のある廃墟」1982年11月の作品
作品ギャラリーへもどる

「額縁のある廃墟」  1982年11月の作品
 今はもう廃線された信越本線・碓氷峠(長野県軽井沢と群馬県横川間)。横川駅から峠方面へと登る。しばらくすると、この廃墟がある。正式名「丸山変電所跡」。110年ほど前に建てられた総レンガ造りの洋館である。私の記憶の中に焼き付けられた風景。子供の頃にすり込まれた思い出で、車窓の中で流れていく風景の不思議な洋館。私には壁の窓が別世界を描く絵画の額縁に見えた。
 学生の頃、写真機を持ってこの廃墟に通った。館の中から窓を通してみた風景は、風や光、流れていく時間を写し出した自然の絵画を納めた額縁だった。手吹きガラスの窓は、鉄製の枠のなかに定着され、時の流れを見守ってきたようだ。子どもの遊び場だったのか、割られて命を絶ったガラスもあちこちにある。レンガの壁は、まるで気候によって染められた記憶のジグソーパズルだった。風雨に洗われ続け、雪にさらされ、日に焼け、苔むしたレンガである。木造骨組みの瓦ぶきの天井は、とろけたように朽ち果て、木漏れ日のように一秒毎の光と陰と淡い色彩を投射する。その窓は額縁ではなく、瞬間という記憶の映画を投影する銀幕だった。

※ボタンをクリックするとスライドショーが始まります