アンティーク・タイプライターは、洒落たインテリアとして今では定番中の定番。ところが、20年程前、アンティーク・タイプライターの価値は殆どなく、地方の骨董屋や古道具屋では"くず鉄"の値段で売られていた。「1s/数百円」の世界なのである。筆記文化のエポック的な存在の有名アメリカメーカー製であろうが、昭和初期の国産品であろうが、価値のない"鉄の塊"だった。このタイプライターと出会ったのはその当時。今は無き上田市の古道具屋で、数千円という値段で手に入れた。
 タイプライターの歴史は、1874年にアメリカで産声をあげる。レミントン社から発表され、かつての和文タイプライターのように、文字盤上で針を文字に指定してハンドルを押し印字する方式で、大文字のみをタイプした。1876年のアメリカ独立100年祭博覧会では、このレミントン社も含め3〜4種のタイプライターが展示紹介されたという。デザインは当時の流行が反映され、アールヌーボーの美に満ちたものだったらしい。
 黎明期のタイプライターは進化し続け、E.レミントンとその息子が1895年、さらに改良した製品を発表。アームによる打刻システムを初採用し、小文字や各記号を打つことができたマシンだった。20世紀の幕開けには、今日のコンピュータキーボード配列のルーツとなる"QWERTY"キーレイアウトが誕生する。英文をタイプしたとき、連続して出てくる文字の統計をとって、アームが交差しないように設計された配置という。我々が見慣れたキー配列は、なんと1世紀以上の歴史を持っていた。
 1903年、L.C.SMITH & BROSが設立され、当時のハイテク産業"タイプライターメーカー"の有力な一角を占める。1904年に発売したタイプライターNo.1、そしてこのNo.2が、その後のスタンダードとなっていくのである。
 ご覧のように、何ともいえない風格をもち、圧倒的な存在感を放っている。
 その昔、修理を試みて、大手タイプライター商社に問い合わせをしたことがある。メーカーと機種名を言っただけで即返答があった。「十数万の費用と半年ほどの時間がかかります」と。さすがに諦め、今ではアトリエでインテリアとなっている。

#003●世界スタンダード・タイプライターのルーツ
   L.C.SMITH & BROS.TYPEWRITER No.2