私が愛用するカメラの1台を紹介しよう。ライカV(日本名ライカDV)&ズマリット50oというカメラとレンズだ。このカメラと出会ったのは、1994年の秋。阪神大震災で激変した神戸元町のJRガード下の今はなき骨董屋である。
 その頃、ある博物館のプランニングで月1回は神戸へ出張していた。当時、元町付近のJRガード下は、骨董・古道具屋、アンティーク、エスニックショップがひしめき合う摩訶不思議な空間で、自然と足が向かってしまう魅力を放っていた。少々いかがわしい店が並ぶ中に、雰囲気のある老夫婦が営む骨董屋があった。陶磁器から箪笥、ブリキ玩具からシルクハット。ありとあらゆるものが、8畳ほどの店にあふれかえっていた。
 箪笥の上には、数台のアンティークカメラが鎮座し、ふとライカが目に入った。ボディーの黒い革が部分的にはげ、一寸見た目が良くない。ご主人が「本物かどうか、それと、本体も汚いしね」と僕に話しかける。しめた、と思いながら手にとると、ライカの重さと金属の冷たさが手と腕に心地いい。近頃のハイテク全自動カメラの軽さと、樹脂独特の温かさとは全く異なる。破格値で手に入れるチャンスに心が浮き足立った。早速購入してアトリエに戻り、ファインダーとシャッターを調整、掃除し、ボディーに赤の革を張り替えた。
 ライカVとは、1世紀半も遡ることができるドイツの光学機器メーカー・ライツ社のカメラで1933年に発売された。3代前のライカTは、映画用に開発された35oフィルムを、世界で初めて使ったカメラとして1925年に誕生したのだ。今のカメラの「聖母」といえる。ズマリットとは標準の50oレンズ。F1.5という明るさは、発売された1949年、驚異的に明るいレンズだった。当時、カメラは4×5インチの一眼レフカメラで、巨大で重たく、レンズも暗いのが普通であった。そのような時代背景を考えると、このカメラ・システムの登場は、今で言う最先端のメディア機器の出現に等しい。
 このカメラのデザインの特徴は、なんともいえぬバランスのよさである。カメラ開発者たちには「いまだにこれ以上のものはない」という台詞があるほどだ。落ち着きのある風貌は、機械のもつ機能美をいかんなく発揮し、70年たった現在でも全く古さを感じさせない。撮影すると、これがまた、実にやわらかい写真が撮れるのである。モノクロかリバーサルフィルムを入れて、じっくりと撮影したくなる。

#001●ライカV(日本名ライカDV)&ズマリット50o