ここ数年、民芸ギャラリーや骨董屋、古道具市で釜、鍋、鉄瓶などを真剣に吟味する"鉄ファン"をよく見かける。アウトドアではダッチオーブンが人気だ。ルーツは異なれども、これも鉄製品への憧れのひとつ。鉄の魅力は、新しいものを使い込んでいく喜びがある。
 一方、使い込まれた骨董の鉄製品を使いこなすという楽しみもあり、両者とも時間がかかるが、実に面白い世界だ。古美術では"鉄気を楽しむ"というが、鉄の持つ力強さ、また、鉄分を補給し、健康でありたい―という願いが、ファンの心を離さない。
 そこで、鉄製品骨董入門に最適なものを紹介しよう。明治期の「鉄瓶・丸形虫喰肌」である。
 ご覧のように、品のあるやわらかい丸味、簡素だが丁寧な細工が施された弦(ル・ツル)と蓋。温かみと優しさが伝わってくる肌、気品が漂っている。
この鉄瓶、25年ほど前、今は無き上田の骨董屋で見つけた。底から水が漏ると聞き、捨て値で手に入れた。修理は上田の漆屋で、内側と底の外側に漆を焼き付けた。
鉄瓶には裏と表がある。口が右に向く側が表だ。銘がある場合、裏側か、口と反対側の弦の下を探すといい。この鉄瓶には「大日本釜師長 名越昌晴造」と刻まれている。
 茶道の心得のある方ならご存知かと思うが、京都名越家といえば、桃山時代から茶釜を造る京釜のひとつだ。釜師・名越弥五郎昌晴(ル・なごしやごろうまさはる)は、明治期に活躍し、我が国を代表する大日本釜師長となった。茶釜は、茶の湯の美意識が最も宿っているという。鉄瓶は、その釜に注ぎ口と弦をつけたものなのである。
 古美術で人気がある鉄瓶は、江戸後期創業の京都竜文堂か、滋賀県長浜の晴寿堂だろうか。丸形、平丸形、筒形、冨士形があり、胴のまわりには松葉文や霰(ル・あられ)、布目、文字入り、丸文などが鋳造によって施されている。値打ちが有るかどうかは、弦に金銀の象嵌が施されているか、また、蓋は胴と同じ鋳造の共蓋か、唐銅や朱銅製のもので細工は良いか―を見ることで分かる。
 古いものを手に入れるときは、状態をよく確認する。水漏れは厄介だが、錆は当たり前だ。使う前に、大豆か小豆を数十粒入れて、炭の火で煮立たせると、錆などの臭いを抑えられる。また、番茶などの出がらしを入れて沸かすと、錆止めの効果があるらしい。ガスの火は鉄瓶が傷むので禁物。臭いが取れるまで何回も繰り返す根気が要る。
 鳴板と称する鉄片が底に張ってあれば、湯を沸かすと「チンチン」と鳴る。私の鉄瓶は「シュンシュン」と呟いている。茶の湯ではこの音を「松風」という。松に吹く風と例えるとは、実に風流だ。

#025●明治期に活躍した京都名越家の
      釜師・名越弥五郎昌晴造「鉄瓶 丸形虫喰肌」